臨床家のための疾患別治療法

    22年の臨床を振り返って自分なりに確立できた治療法を書いてみたいと思います

特に体外受精の確率を上げる治療にはかなり自信を持てるようになるはずです

                  

                  

                  

                  

                  

                  

                  

                  

このページが鍼灸師の日々の臨床に少しでも役に立てば幸甚です

             


















     体外受精率を上げる

 これは、ある患者さんの一言から始まりました。

体外受精をするという当日、冷え性の彼女は「少しでもからだを温めておけば成功率も上がるのでは?」と。。。

では試してみましょうというとこで、三井先生のOn-Q(温灸器)で、天枢、関元、有名な中条流子孕の灸点、血海、三陰交、大腸兪、次髎、承筋を我慢できるまでの(5から10秒ぐらいで熱くなるように)各5~7回ずつ施灸しました。

全部の治療時間は約40分ぐらいかかったと思います。

結果は初めての体外受精でみごと成功!
その後、今まで体外受精を7回しても一度も妊娠しない方、8回しても妊娠しない方、いずれも治療後一回で成功しています。

治療は体外受精前、週に1から2回と当日の朝1回でうまくいきました。

温灸器は三井式のほか阿久津式みそ灸(若い先生は知らないかも)、MT灸でもよいと思います。

おそらくこの方法は当治療室オリジナルだと思います。ハリー木下式とでも言っておきましょうか?

ぜひほかの鍼灸師の先生方も試してください。

































顔面神経麻痺

西洋医学的なことは、専門書を参考にしてください。

ここでは末梢性(いわゆるベル麻痺)を対象に述べます。

ほとんどの原因は風邪(ふうじゃ)により血中の津液が虚して虚熱が発生しているとおもわれます。
クーラーによる頚部、顔面の極度の冷えが引き金を起こすことが多いですね。昔は窓を開けての運転手さんが右の顔面麻痺になったそうです。

治療としては顔面部に鍼を刺す先生がほとんどでしょうが、初期のうちは強刺激による悪化の話も聞きます。
臆病ものの私は、顔面に鍼を刺すことはめったにありません。

鍼の先がほんの少し出るくらいに示指と拇指でつまみ、麻痺しているところ全体をチクチクと痛くない程度に皮膚鍼をしていきます。軽く赤発したらよいでしょう。(この方法は池田政一先生の本に書いてありました)

頚部,肩背部のコリを取ることはもちろん大切ですが、冷えによる虚熱が発生しているので、知熱灸を多用しています。
あとは体全体をリラックスさせていきます。

この方法で失敗したことはありません。3回~20回でなんとかなっていますが、80%から90%良くなっても、あと一歩で完全治癒しない例も経験しています。

顔面神経麻痺の治療は得意としてインターネットなどで患者を多く診ている先生も多いですが、ある程度の鍼灸師ならば誰がやっても同じ結果が出ると思います。
というより忙しすぎて流れ作業的なところは症に関係なく治療している先生もいるようです。
そうなると、ちょっと難しい患者さんは治せないんじゃないのかな~なんて。。。

実際、顔面神経麻痺ですっごく流行っていて遠くから多くの患者さんがくる治療院から、治らないと言って当院でよくなった人もいますから。。。






































顎関節症

 軽度のものから重度のものまでかなり差がある疾患ですが、印象に残っている患者さんでほとんど口が開けられなくて流動食で生活している方がいました。

一般的に使用する経穴は、聴宮・天牖・天柱・風池・手三里・四瀆・兪府などですが、口を開けられないので聴宮は鍼がうまく挿入できない場合もあります。

その患者さんは、頚部のこりが強いのですが、どこを押しても痛がるのでとりあえず背部を軽く指圧していきました。
次髎・小腸兪付近を押していたら、患側の小腸兪で悲鳴を上げるくらい痛がります。
そう言えばむち打ち症の患者さんもこの付近で圧痛がよくでるな~と思い、圧痛点に直接灸をすること、?壮(何壮したかは忘れました。)

それが劇的に効いて6割くらい治ってしまいました。その後2回くらいで、治癒したと思います。

最近は長野潔先生が良く使用していた、兪府ー照海 を私も使いますが、兪府の皮内鍼は良く効くような気がします。

ただ、軽症でも慢性的な患者さんは、すっきりするには、なかなか時間がかかる気がします。







































   関節リュウマチ

西洋医学では、ウィルス説、自己免疫異常、遺伝説、アレルギー説、代謝異常説、病原微生物の感染説など言われているように解明されていないのが現状です。

東洋医学でも金匱要略では水毒・湿病・中風歴節病として分類されています。

リュウマチの患者は、いろいろな症状が重なって現れることが多く、膠原病の中の一種類だけに当てはめて治療しても漢方医学ではあまり意味がありません。
かといって、対症療法以外の全身治療(本治法など)となるとこれはかなり手ごわいのも事実です。
今のところ必要に応じて新薬(ステロイドも含む)と漢方治療(鍼・灸・漢方薬)を併用するのが最善と考えています。

鍼灸治療としては、最も効果のある方法は、知熱灸を中心に治療することです。

まだ開業間もない頃、関節リュウマチで腕は曲がり、足を引きずって週1~2回治療にいらっしゃっていた患者さんがいます。
たいした知識も臨床経験もなく、ただただ、発赤、腫脹、疼痛を目標にまわりに知熱灸およびマッサージをしていたら、一ヶ月ほどで変形していた腕が動くようになり、二ヶ月ほどで足をほとんど引きずらなくなりました。
これには患者さんも、私もびっくりしました。
それ以来、関節リュウマチの患者は自宅で知熱灸をすることをすすめていますが、まじめにやる方(痛みの激しいい人ほどまじめですね。)は痛みには即効的に効くといってやってがんばってやっているようです。

来院できる患者さんなので、重症の方を知らないだけかもしれませんが、このやり方でよくなることはあっても、悪化した人は一人もいません。
自信を持って知熱灸をすすめてください。

当院の知熱灸の作り方は、約一センチの三角錐です。毎日妻が100個ぐらい、ちまちま作ってくれています。



































無月経・不正出血

どちらも治療方法としては同じ考えでよいと思います。
治療穴および治療方法は、体外受精率を上げる経穴とほぼ同じですが、三陰交の刺鍼はやはり必要でしょう。まれにカマヤミニだけで、うまくいく場合もありますが、それは単にうまくいっただけでなかなかそうはいきません。
三陰交は軽く雀啄をしたほうが、効果があるようです。

症例)22歳 女性
 特別なダイエットをしたわけでもなく、特にやせているわけでもないが、六ヶ月生理がないとのこと。
小野寺式みそ灸にて治療穴を温灸したところ、数日後に生理有り。その後毎月順調になりました。
ただ、このときは三陰交の刺鍼はしていません。   

不正出血は年齢にかかわらず、2~3回の治療で止まることが多いですが、更年期後や長引く場合は必ず婦人科に行くように指導してください。

婦人科疾患は鍼灸のとても効くものが多いので、鍼灸師の腕の見せ所ですね。
一般的に灸などであたためて治すことが多いのですが、瘀血や、高脂血症、血熱がある場合は、それなりの治療が必要で、刺絡をする先生もいらっしゃるかと思います。

 



































突発性難聴

 最近非常に多くなった疾患です。原因不明の場合といわれていますが、心身疲労、ヘッドホンの使用も大きな誘因であることは明らかです。

また、西洋医学では発病後2週間以上たったら回復は低くなり、3ヶ月以上変化がなければ、細胞が死んでしまうので、これ以上は治りませんと言われるのが普通です。
しかし、この治療を多く手がけている鍼灸師は3ヶ月以上たった患者さんを診ることも多く、しかもかなりの確率で治癒させていることでしょう。
私も場合も、ほとんどの患者さんが医師から「もう治りません。」といわれた人たちですが、好成績を残しています。
細胞が死んでしまったのならば、治った患者さんは細胞がよみがえったのでしょうか?
一度専門家に聞いてみたいと思っているのは、私だけではないと思います。

さて、治療方法ですが、あくまでこれは私の場合ですが・・・
経穴はどの先生も使用していいると思われるもので、耳門、聴宮、聴会、翳風、完骨、天柱、風池、などです。
鍼は一寸一番を使用します。理由は仰臥位の場合、寸三または寸六だと肩が邪魔をして刺鍼がしにくいからです。

他の先生方はきっと二番鍼以上を使用していると思いますが、私は痛がる患者さんもいらっしゃるので、一番を使用しています。(未熟ものなのかなー)

切皮程度から、1~2cmまで穴によって違いますが、聴宮、翳風、完骨は1~2cm刺入します。
翳風は百会の方に向かって刺入しますが、まれに鼻の方に向かって刺入したほうが良い場合もあります。
次指などで、どちらのほうが圧痛強いか確かめてから刺入してください。

刺鍼時間は、10~15分くらいです。
その間、患側の手三里、中渚、外間、健側の陽陵泉、丘墟、侠綌を鍼、または施灸します。
めまいを伴っている場合には、四肢の治療は必要ですね。
それと、鼻の悪い方が多いのでたいてい、上星(恖会)の施灸もします。
必ず使用する経穴に、難聴治療の大家である服部先生のまねをして、足の第四指裏横紋の中央 唖Q-点(両側)にも刺鍼します。
これについては医道の日本 疾患別治療大百科シリーズ4を参照してください。

これは私独自のやり方だと思いますが、その後、側位にして患側の耳周辺に4ヶ所ぐらい知熱灸をします。
これは患者さんから効くような気がするとよく言われます。
たぶん、耳の内部の浮腫を取る力があるのだと思っています。
あとは、肩背部のこりを取ればよいでしょう。

患者さんも術者も10回ぐらいまでは期待でいっぱいですし、事実そのぐらいでかなりの改善がみられることが多いですが、変化がないと双方共にあせりがでてきますよね。
突発性難聴にかけては、かなりの自信があった私も50回通ってくれて思うような効果がでない患者さんがいらっしゃいました。本当にその患者さんは非力の私を信じてくれたのにと思うとすまない気持ちでいっぱいです。
一生懸命通ってくれているのに、治せないときは本当に苦しいです。
だからこそ、日々勉強ですね。がんばりましょう。

追伸 当院では頭部・頚部・の指圧も併用していますが、指圧・マッサージをしない先生は、軽い耳周辺のマッサージ法を患者さんに指導したほうが良いと思います。



































  むちうち症

 自由診療の鍼灸院では、交通事故の患者さんは激減しているかもしれませんが、東洋医学を基本として行う鍼灸専門の治療院の腕の見せ所であることは、今も昔も変わりません。

ただし、何をやっても治らないというむずかしい患者さんが来院することはたしかですが。。。

症状が激しいからといってもっとも悪いのは強刺激です。
時間をかけて(患者さんは薄紙をはがすように少しずつ良くなるといいます)治療しないと必ず、めまいや悪心が強くなります。
頚部、肩背部のこりは、切皮程度で十分だと考えています。
そして、必ず下肢の委中・跗陽の圧痛をみて、直接灸や皮内鍼をすることにしています。

頚部にガクンと刺激が加われば、脊椎全体にも大きな衝撃がありますよね。
同時におしりのほうにもドスンと衝撃を受けるので、再び反対の環椎や後頭関節にも脊椎を通して衝撃が伝わります。

頚部の痛み、むち打ちによる自律神経系疾患はこの衝撃による捻挫、筋肉・靭帯の損傷・血行障害・神経根障害などによって、起こります。

整形外科や接骨院ではほとんど頚部の牽引やシップなどしか行いませんので、軽症ならばともかく重症の場合治るどころか悪化すらするケースもあります。

むちうち症の場合頚部のこりを取るにはちょっとしたコツがあります。

カイロプラクティックの世界では(西洋医学的にはよく知りませんが)、脊椎のS字カーブの構造上、C1とL5およびC5とL1は連動していると言われています。
たしかに治療をしていると、仙骨付近、特に小腸兪に圧痛が出ることが多く、圧痛を目標に施灸や鍼をするのが頚部コリを取るこつで、最も効果があると感じています。

脈が実している場合には、刺絡も劇的に効くことがありますが、信頼関係のできていない患者さんには行うべきではないでしょう。

むちうち症は、鍼灸以上に効くものはないので、必ず治すことができると思って治療しましょう。

追伸 文献は参考にしてませんので理論的に間違っていたらすみません

臨床例)
 60歳 女性

 10年前にむち打ち症で入院。手のしびれ、頚部の痛み、頭痛、ふらふら感などで毎日悩まされている。
今までに使った治療費だけでも100万円は下らないといっていました。

まだ開業間もない頃でしたが、とにかく、頚部、背部をほぐすことに力を注いでいました。
週に1から2回ほど続けたところ、一ヶ月くらいたったら、薄紙がはがされていくようだと言われました。
さらに二ヶ月治療して、60%ぐらい良いと思っていましたが、思い切って頚部の刺絡をしたところ、急激に良くなってあまり症状を訴えなくなりました。

のぼせないように注意して、治療の最後は必ず下肢のマッサージをしたのがよかったと思っています。

ただこの時は、まだ小腸兪の圧痛を診ていませんでしたので、もし今だったらもっと早く治せたかも知れませんね。


































  ぎっくり腰

North American Journal of Oriental Medicine (北米東洋医学誌)に掲載したものです(英文もあります)

誰にでもできる鍼灸術
1年生には1年生の、20年生には20年生の鍼灸術がある。
しかし、不思議なことにその時の能力に合った患者が来院してくれるものである。
鍼灸の達人を師としてあらゆる疾患に自信を持てるようになったものはいいが、たいていは本を読みあさり、自分なりに日々の臨床を通して不安を抱きながらも少しずつ進歩していく治療家がほとんどだと思います。。

そこで20年の臨床の中で、難しい技術を必要としないで誰がやっても大きな効果を出せるものを取り上げてみました。
もちろん脈診も古典も刺鍼技術も日々勉強することが大切です。

誰にでもできるぎっくり腰治療
ぎっくり腰の患者は鍼灸がはじめての患者も多い。普段から鍼灸をやっている患者はぎっくり腰になる前に治しているからかもしれない。しっかりと3回以内で治すとその後何かあれば鍼灸を頼ってくれるようになる。
まちがっても悪化させてはならない。ぎっくり腰の患者はゆっくりと問診どころではないのですぐに治療に取り掛かるが・・・

 仰臥位になれる場合は
(1)まず膝の下に膝台を入れて足をくの字にさせる。
脈を診れる人は証を決定して本治法を行えばいいが、自信のない場合は、まず腹部のまわり(中脘、天枢、気海、関元付近)の硬結に知熱灸を行う。
うっすらと皮膚が赤くなれば1回でよいが赤くならない場合はもう1回行う。

(2)ここで問診を行う。
「痛みは右か左に片寄っていますか?」答えは右か左か全体ということになるが、左右どちらかだと1回から2回で治る場合が多い。
全体ですと言われたら「治療するとだんだんと痛みがはっきりと限局してきますので、そうなったら治ってきている証拠です」と筆者は答えている。

(3)知熱灸が終わったら、患側の風市、足の三里、陽陵泉、中封、金門、の圧痛点を診て切皮程度の鍼を5分から10分置鍼する。
重症者は着替えもできないので、皮膚が出ない場合は軽く上記の圧痛点を指圧してもよい。

(4)この時点で普通ならば伏臥位になれるのでゆっくりと伏臥位になってもらう。
胸当てはしてもしなくても、とにかく楽な姿勢のほうがいいように思う。
ただし足首は浮いていれば必ずタオル等を入れることが大切である。

(5)腰背部を全体的に診てみると筋肉がカチカチに硬直しているのがわかるはずである。
(どこにも硬直が診られない場合はいわゆる筋筋膜痛ではないことが多いので、治癒には少しかかる場合が多い。治療法は異なるのでここでは省きます。)
背部から腰部にかけての硬直の周辺を8から20ヶ所ぐらい0番から2番程度の鍼で切皮鍼(1ミリ~3ミリ)、約10分ぐらい置鍼する。

(6)置鍼している間に望診にて筋肉の盛り上がりを見ると、どちらかが必ず不自然に盛り上がっている(患側とは限らない)のがわかると思う。
よくわからない時は手の平でごくごく軽く押さえてみると何か感じるはずだ。
そしてまず患側の跗陽(時に飛陽寄り)を強く圧すると患者は腰をひねって痛がる。
その時盛り上がりまたは硬直が取れて正しい姿勢になるのがわかると思う。
もし患側で逆に盛り上がりが強くなるようならば、健側の跗陽を圧してみる。患側とは限らないので必ず両側診ることが肝心だ。
どちらも強い圧痛がない場合は築賓あたりに反応が出ている時がある。
これはやや慢性化している場合があるようだ。そして硬直が取れる経穴を確認したら、そこに米粒大で15壮から21壮しっかりと施灸する。
これは知熱灸では効果がないので施灸をいやがるようなら、皮内鍼でもかなり効果はある。

(7)最後に背腰部の鍼を抜き、鍼とほぼ同じところに知熱灸を行う。
普通はこれで5割から7割ぐらいは良くなっているので、当日は 絶対にお風呂に入らないように(理由は各自考えて患者さんに納得できるように説明してください)、そして足、腰を冷やさない様に指導すれば、必ず翌日は笑顔の患者さんを見ることができると思う。

(8)全治療時間はだいたい40分程度です。
はじめから仰臥位ができない場合は、伏臥位からはじめて最後に伏臥位でもかまいません。
とりあえず鍼灸師初心者用に書いてみましたが、筆者はこの治療方法で失敗したことはありません。
自信を持って治療してください。なるべくわかりやすく書いたつもりですが言葉の足りないところはお許しください。

※知熱灸 当院では山正さんの明星を使用。もぐさを約1.5cm程度の3角錐にして皮膚にのせ、熱くなったら我慢せずに「はい!」と言ってもらい取り除いています。

 

木下信幸
1990年 東京医療専門学校卒業
      鍼灸指圧師 薬種商
1989年 指圧にて東洋治療室開業 現在に至る